JAPAN B.A.S.S. NATION バスオブジャパン

JAPAN B.A.S.S. NATION バスオブジャパン
   
     
 

2016 Academy Sports + Outdoors B.A.S.S. Nation Championship Report

 
   
      「I participated in BNC」 【B.A.S.S. Nation Championshipに行ってきた!】 石川 尚昭  
 

いざ、アメリカへ

トーナメントに夢中になり、漠然と憧れを抱いていた「America」。ただ、それはあくまで「憧れ」であり「目標」ではなかった。
B.A.S.S. Japan Nationに入会し、「憧れ」はいつしか手に届くかもしれない「夢」へと変わっていった。

代表となることが決まってから、渡米までは1年4ヶ月。
会場となるレイク・コンローの湖沼図は穴が空くほど確認した。英語は万全ではないが、簡単な日常会話と、釣り関係の単語ならなんとなく理解はできる。知人に頼んで大型バスボートの操船練習もさせてもらった。
ここ数日間の天候は安定しているようだ。しかし、大会中に低気圧が通過するらしい。
情報を手にすればするほど、準備が進めば進むほど、早く渡米したくてたまらなかった。
楽しみで楽しみで、準備も全く苦にならなかった。

後は…無事に現地に着いて釣るだけだ。

プラクティス1日目

C:\Users\ishikawa\Videos\Pictures\My Pictures\BNC(Lake Conroe)\DSC_0102.JPG11月13日、分部祐也くんと2人、ヒューストン空港に降り立った。直後、通訳のためテネシー州ナッシュビルから来てくださった寺島さんと合流。
その足でバスプロショップスにライセンスを購入しに行く。ついでにお土産の購入、そしてタックルの補充。
自分がアメリカにいることを実感する。夕食のでっかいステーキがさらに追い討ちをかけた。

ホテルに到着した頃には、あたりは真っ暗になっていた。
宿泊は「La Torretta Resort and Spa」。恐らく湖畔にある建物の中で、一番高層なビル。「ちょっといいリゾートホテル」って感じ。これから1週間、ここが拠点となるのだ。
ベッドに入ると、すぐに睡魔が襲う。機内では熟睡できなかったしな…。

…しかし、夜中に目が覚める。完全に時差ボケだが、それ以上に自分がアメリカにいる、そしてこれから釣りができる…自分のテンションの高さが、眠気を奪っていた。

11月14日。鈴木さん、寺島さんが手を回してくださったおかげで、公式プラクティス前にボートを貸していただけることになった。ただし、朝イチからメンテするので、それが終わり次第、という条件付きだったけど。
湖畔にあるIHOPでのモーニングの後、ゆっくりとマリーナへ向かう。スロープの脇に駐艇してあったのはSkeeter ZX250。YAMAHAのSHO250馬力、FORTREXの112lb、そしてLowrance HDS Gen3が前後に2台のフル装備。今日からコイツが相棒だ!

マリーナは湖の最下流部にあった。今日のプラクティスはとにかく広範囲を見て回りたい。とりあえず行けるところまで行こう、と上流へ。
地図で見ると「Jungle」と書かれたティンバーエリアを数箇所通り抜け、湖の上流部に架かる大きな橋を超えてすぐのクリークに入る。
11月とはいえ、気温は25℃を超えている。水温も20℃以上あるので、まずは表層系からスタート。
小規模ブッシュの続くクリーク内。トードのノーシンカーで手早くチェックするが、全体的に水深が浅すぎるのか、それとも高気圧のせいなのか、チェイスしてくる魚はいない。
途中でUターンし、今度はクランクベイトで本湖とのインターセクションまで流していく。本湖に面した岬で、やっと魚からの答えが返ってきた。
アメリカで初めてキャッチした魚は、20cmくらいのノンキーパー!それでも、魚からの反応があったことが素直に嬉しかった。日本でもアメリカでも、魚は魚。自分の釣りで、絶対に結果を出してやる!
少し下流の橋へ移動。こちらでは橋の周囲には必ずと言っていいほどリップラップが存在している。東西に長く伸びたリップラップにクランクをキャストしていく。プラクティスの時間が絶対的に不足している自分にとっては、このような目に見えるストラクチャーでの釣り方を見つけることが最重要事項だと考えていた。
数投目で、ロッドが急に絞り込まれた。薄い紅茶のような色の水の中で、魚体がギラッと反転するのが見える。サイズのわりに痩せていた、4ポンド(1,800g)ほどの魚。たいして暴れるでもなく、すんなりハンドランディングに成功した。
ナイスキーパー。もしや、このサイズが難なく釣れるフィールドなのか?
数投後に再びバイト。今度の魚は右へ左への大暴れ。ランディングにも苦戦したが……。わずかにキーパーサイズには足らなかった。今回のトーナメントではキーパーサイズは16インチ(約40cm)。なかなか難しそうだ。今釣った魚はノンキーパーなのに2ポンド(約900g)くらいはあるのだが…。
プレッシャーをかけ過ぎてもいけないと考え、下流に移動する。沖にティンバー群の目視できるワンドのシャロー。ノンキーパーを追加した後、突然ロッドがバットから曲がった!
今までに味わったことのない引き。水面を割って姿を見せたのは、メータークラスのグラスカープ(草魚)。
当然、ランディングネットは積んでいない。どうやってルアーを外そうか……と考えていたが、ヤツは強烈なパワーで16ポンドテストのラインをいとも簡単にブッチ切っていった。
コイツのせいで、コンクエストのシャフトがイカれたようで……キャストのたびに異音がして、飛距離が出なくなった……。

その後も別のリップラップや隣接するドッグを数箇所周り、ノンキーパーを数本追加したものの、キーパーは追加できずにタイムアップ。しかし、魚からの反応があった場所に何らかの法則性を見出すことが出来、人生初のアメリカでの釣行に満足していたと同時に、翌々日に控えた公式プラクティスが待ちきれない気持ちでいっぱいだった。

プラクティス2日目(公式プラクティス)

11月15日はIDの交付やレジストレーション、レセプションがあったため、湖上には出られず。タックルをマリーナへ全て持って行き、ボートに積み込んだ。
全米から、そして各国から続々と選手がホテルへやって来る。みんなデカい!コイツらがみんなライバルになる。
明日の公式プラクティスでどこまで魚とリンクできるだろう…。築山さんから来たLINE「焦らず 気負わず 僅かなヒントから光明は見いだせる」「焦りそうになったり、トラブルや手が震えそうな時は、周囲とテキサスの空を見上げて深呼吸してみよう」というアドバイスを繰り返し読みながら、床についた。

翌16日、公式プラクティスデー。ランチングに始まり、トーナメントディレクターの挨拶、国家斉唱、ライブウェルやキルスイッチのチェック、そしてスタートまで、本番通りに行うのだ。ウェイインこそないが、ローディング後のウェイイン会場への牽引まで、どのくらいの時間がかかるのか、スタッフが念入りにチェックし、選手に翌日の行程について説明をしながら進めていく。「プラクティス」というよりも「リハーサル」。
スタートは58番、最後だった。公式プラクティスは同じNationの選手と同船する。ノンボーターで出場の祐也くんにとっても大事なプラクティス。2人にとって実りあるモノにしなければ…。
ホテルからマリーナまでの道中で、いつも通過する、インレット絡みのワンドにかかる橋。その周りのリップラップをファーストポイントにチョイス。ブッシュにクランクベイトを通過させると2ポンドちょいのナイスキーパー。途中のプアなカバーにノーシンカーを入れると5ポンド近い魚。リップラップに当てながらクランクベイトをリトリーブさせて2ポンド追加とノンキーパー数本…船を流すスピードをかなり早くし、相当雑な釣りをしてもこの反応。このエリアはアリだな!
丁寧にやればまだまだ釣れる、その確信があった。翌日のために別のエリアへ向かう。本湖を横断し、別のインレットにかかる橋へ。周囲のリップラップにてノンキーパーを数尾キャッチし、さらに3~4ポンドほどのナイスキーパーをバラシ。こちらも丁寧にやればまだまだ絞り出せそうだった。
次の橋へ。ここではノンキーしか釣れなかったが、とにかくリップラップに魚が濃いことだけは良くわかった。
今回、目標ウェイトを1日15ポンドと設定していた。この感触で丁寧に釣っていけば、無謀な目標ではない。とりあえずベースはリップラップとして、バックアップを見つけなければ…。
しかし、ここからが試練だった。11月だというのに気温が29℃まで上昇。こっちの日射しは日本よりも相当強く感じる。リップラップでも、朝イチ以外は日向側でのバイトは皆無だった。このレイク・コンローというローランドリザーバーは、北側の半分はナチュラルな湖岸線だが、南側はリゾート地のためショアラインには別荘が並ぶ。全面護岸してあり、ボートドックが点在している。このシェードを撃つのもローカルのパターンのようだ。が、残りの時間をこのドック撃ちと、沖のストラクチャー狙いに充ててみたものの、祐也くんがノンキーパーを獲ったのみに終わる。
バックアップパターンを見つけられなかった…それでも、さほど心配をしていなかったのは…低気圧が接近していたから。この時は「低気圧により活性が上がって、しかも丁寧な釣りを心掛ければ目標ウェイトくらいはどうにかなるだろう」と思っていた。

この日、プレジデントミーティングのために渡米してきた玉越会長とも合流。夕食はみんなでイタリアンに行った。アルデンテなパスタが食べたかったのだが…残念ながら食感はソフト麺だった。

トーナメント初日 ~誤算~

11月17日、Day1。パートナーはオレゴン州のAddam。なかなかのイケメンだった。公式プラクティスに続き、今日も最終スタート。アメリカ国歌が湖上に響き渡り、荘厳な空気に包まれていよいよチャンピオンシップが始まる!
スタートを待っている時、神妙な面持ちのAddamに「Are you nervous?」と尋ねると「Yes!  But I’m excited!」と返ってきた。
いよいよスタート。目指すファーストポイントは、昨日と同じリップラップ!Skeeterのアクセルを踏み込むと、HDSに表示された時速がどんどん上がって…いかない。画面には「GPS Not Responding」の文字が…。衛星を補足していない時とか、アンテナの線が断線したりする時に見かける表示。この広いフィールドで、コンソールのGPSが使えないのはキツい。あれこれ試してみたのだが、どうにもできず。隣で「何してんだコイツ?」みたいな顔をしていたAddamも画面を見て状況を察したようで、彼にも見てもらったのだがどうやらお手上げの様子。
仕方ない、こうなればGPS無しでもどうにかするしかない、と諦め、とりあえずファーストポイントへ向かう。リップラップの端から流し始めるが、昨日と異なり反応がない。こんなに丁寧にやっているのに!
お互いにノンキーパーを数本ずつキャッチし、リップラップにブッシュが絡んだスポットでビッグバイト!やっとキーパー来たよ~、と安心したのも束の間、バックシートから「Drum…」と声が聞こえた。案の定、姿を見せたのは愛嬌のある顔のドラムだった。
続くキャストでも再びロッドが曲がるが、今度はなんとクラッピー。2日間のプラクティスでは釣れていない魚達が今日は良く釣れる。プラクティスで釣れていたら記念にカメラに収めていたであろうこの魚達も、今日のこの真剣勝負には邪魔な存在でしかなかった。

移動を決断。次の橋へ向かう。リップラップを流し始めるが、こちらも反応がない。更に次の橋へ。
ところが、こちらも同じだった。前日の好反応がウソのよう。同じような天候に、変わらぬ水温。ただ1点、異なる点があるとするならば、翌日は低気圧が通過するため、天候が崩れる予報である、ということか。
もしや、どこかに移動しやがったか…。毎晩ホテルの部屋で、コンローの湖沼図を見るのが日課になっていたのだが、シャローに隣接した「Pond」と記載された野池跡のようなエグレがあちこちにあるのが気になっていた。幸い、ここの橋脚はそんなエグレの部分に建っている。何らかの理由で魚がレンジを変えているのであれば、もしかしたら…。
メキシコ湾の方から低気圧が近付いているのだろう。南寄りの風が段々強さを増していく。橋脚部分はチョークしているため、カレントが発生していた。水深にして3mほどの、その深くなった部分にスワンプクローラーのネコリグをキャストしていく。
すると、やっとバイトが出始めた。しかし、急な寒波が来た時や、人為的プレッシャーがかかった時、はたまたポストスポーンのように魚に体力が無い時のような、グリップに伝わってこないショートバイト。実はこういう釣りは最も得意とするところだ。でも…。
釣れども釣れどもノンキーパー。35cmから39cmくらいまでの魚が面白いように反応してくるのだが、キーパーサイズの16インチ(40cm)を超える魚が獲れない。ここもダメか…。
その後、ドック撃ちを試みたり、他の橋に行ってみたりもしたのだが、残念ながら初日はノーフィッシュで帰着となった。

景気のいい話が聞こえていた前日と異なり、この変化についていけなかった選手は多かった様子。予想よりもローウェイト戦な初日だった。

トーナメント2日目 ~悔しさの中で~

初日のステージが終わり、夕闇の中ボートヤードで翌日の準備をする。そこへ全選手のリザルトを確認した寺島さんがやってきた。
「明日一緒に乗る選手が、今日ノンボーター部門で2位になってるよ。もしかしたら自分のポイントに行かせろ、って交渉に来るかもなぁ」
こういうケースって、やっぱりある程度ノンボーターのポイントへ行ってあげるのがセオリーなんですか?と問うと「そうだね。でもあくまで決定権はボーターにあるから、どちらでもいいと思うよ。ただし、釣れなかった場合はパートナーとの空気が相当悪くなると思うけど」と答える寺島さん。
実は、初日の後半、ノンボーターとの間にはとてもギスギスとした空気が流れていた。スマホの翻訳機能を使えば相手が何を言っているのかは理解できる。しかし、トーナメント中はいちいちそんなコトをしている時間はない。「Please speak more slowly」と何度も言われ、しかも見当違いの回答をするジャパニーズに、明らかに苛立っている様子だった。
もっと英語を勉強しておくんだった。今更後悔…。
そうこうしているうちに、彼がボートに近づいてきた。寺島さんを介して「明日は自分のエリアへ連れてってくれ。オレのメインパターンはドック撃ちと沖のブレイクだ。ただし、ドックの奥はオレに撃たせて欲しい」と。
これだけ自信を持って言ってくるのだから、魚のいるエリアを掴んでいるのだろう。明日は天候が崩れる。魚はドックの奥でジッとしているとは到底思えない。活性が上がり、ドックの周囲でフィーディングする魚も多いのではないか。魚がいるエリアさえわかれば、決して釣り負けることはない…そう考え、彼の申し出を受け入れることにした。

11月18日、Day2。早朝、前日までとは違った、湿気の高い空気がマリーナを包んでいた。彼=ルイジアナ州代表ノンボーター、Ryanは自分のiPhoneに登録したポイントを、HDSに移し替えている。
今日は1番フライト。まだ薄暗い、誰もいない湖面を時速100km超で滑走する。Ryanが選んだポイントは、湖中流域のボディーウォーターに面した、岬周りにあるドック群だった。
最初のエリアではドック周りのクランキングで魚を掛けるも、丸飲みされていたのか痛恨のラインブレイク。次のエリアも、その次のエリアでも、魚からの反応は無い。その間に、彼はノンキーパーを数本キャッチしていた。
数回の移動ののち、私にもバイトが来る…がこれもノンキーパー。思う通りに行かない焦りか、彼がイライラしているのが伝わってくる。
何時間経った頃だろうか。予報とは裏腹に薄日が差してきた。ドックから次のドックまでの間の護岸、一見何もないのだが恐らく何か沈んでいるスポットなのだろう。グッドサイズのキーパーをやっと彼がキャッチした。
ポイントを知っていないと辛いな、と気付かされる。その後1時間ほど、お互いにノンキーパーしか釣れない時間があったのち、彼がドックの奥でデカい魚を掛けた!なるほど、これを狙っていたのか…。
天候はすっかり回復し、前日までのような日射しが戻っていた。これではドックの奥が撃てないと不利かもしれない…。
次に移動した先は、今までとは逆の条件…ワンドになった部分にあるドック群だった。本来ならきっともっと簡単に魚が揃うと想定していたのだろう、彼はまたイライラしていたように思う。
Be relax! Try Japanese Candy. そう言って日本から持ってきた【パインアメ】を差し出した。「Oh Thanks! I like pineapple」彼は小声で応え「Try it」と言ってアメを口に入れた。
そのドックの沖に、彼はオフショアのスポットを持っていた。恐らく野池跡と思われるエリアのブレイク。「This waypoint to this waypoint,moving slowly.」HDSに表示されたウェイポイントを指差しながら、彼はそう指示した。
スタート前に寺島さんが「コイツは英語が話せないけど、単語なら理解できるから、簡潔に伝えてね」と言っておいてくれたおかげで、Ryanはわかりやすい言葉を選んで話しかけてくれていた。
50mほどのその区間を、何度も往復して欲しいとの彼の指示。沖に向かって遠投し始めた彼。ここは同じ立場で釣りができる、とディープクランクのついたロッドに持ち替える。
先にロッドが曲がったのはやはり彼だった。右に左に良く走る魚に、彼の顔が曇る。「Striper…」と呟いた。結構なサイズのストライパー。
プラクティスではストライパーではなく、ラージマウスが釣れていたらしいのだが。
その後、二人で何尾のストライパーを掛けたことか。そんな中、彼の掛けた魚が水飛沫を上げた。ストライパーなら左右に走るだけのハズ。ラージマウスだ…。
ストライパーに見劣りしないグッドコンディションの魚。期待がグッと高まる1本だったが、次のキャストからまたストライパー祭りが始まる。
しかし数投の後、彼は再びラージマウスをフッキングさせた!しかもデカい!見事な6パウンダーをキャッチして、彼は饒舌になった。ありがとう、お前に貰ったパイナップルキャンディーのおかげだ!これはラッキーアイテムだ、と…。
そのポイントで彼は更に1本追加し、リミットメイクに成功した。あぁ、きっと彼はオフリミットになる前、相当練習を積んだに違いない。自分の中にある悔しい気持ちに蓋をし「Congratulations! I think, You will be winner…」と声を掛けた。
直後、風向きが変わり、北の方から黒い雲が急に現れた。急いでレインウェアを着ろ、と彼が言う。慌ててレインウェアを着ると、バケツをひっくり返したような雨が降り出した。
彼が何か言っている。恐らく「大丈夫。オレは他にもスポットを持っている。頑張って釣ろうぜ」というようなニュアンスだったと記憶している。今は彼を信じるしかない…。
豪雨、そして強風。荒れた中の操船はなかなか痺れた。顔に叩きつける大粒の雨が痛い。途中偏光グラスが飛んだが、シートの隙間に引っかかっていてくれた。そんなこんなでどうにか彼の指定したエリアについたものの…。
さっきのスポットと同じ野池跡のようだが、日本で経験したことのないような強風で、ハイバイパスにしても進まない。正直な話、舐めていた。低気圧(コールドフロント)がこれほどのものとは…。日本ではポピュラーな「気圧が下がったから活性が上がる」なんていう状況を想定していた、いや甘い夢を見ていた自分が恥ずかしくなった。
ここのエリアにも彼は相当コンフィデンスを持っていたようだが、この状況では仕方ないと判断し、風裏に避難することにした。近くにあるドックを撃ち、彼が1本キャッチした。3ポンドほどのキーパーだが、入れ替えに成功。タイムアップまでもう僅か。会場対岸まで移動し、ドックを撃つも、彼がノンキーパーを獲ったのみで、帰着時間を迎えた。

フライトが1番だったので、ウェイインも一番。最初に船をローディングし、牽引されてウェイインステージへと向かう。いつもネットで見ているB.A.S.S.の司会、Dave Mercerが「Nao Ishikawa!」とコールする。通訳してくださった寺島さんを介して感謝の意を述べた後、Daveからマイクを奪って「I’ll be back!!」と言ってステージ裏へ引っ込んだ。裏手にいたトーナメントディレクターのJonが「Nao! Thank you.」と握手を求めてきた。懸命に作った笑顔でJonのデカい手を握り返し、そのままステージ裏にある階段を降りると、もうガマンすることはできなかった。悔しさ、情けなさ、責任感、敗北感、祭りの後の寂しさ、その他例えようのない気持ち…。涙が頬をつたう。拭っても拭っても溢れてくるので、たまらず上を向いた。さっきまでの豪雨がウソのような、低気圧通過後のテキサスの青い空がそこに広がっていた。

ボートヤードに戻り、片付けをする。明日はもう、このSkeeterに乗ることは出来ない。Ryanは暫定1位のウェイトを叩き出していたので、ウェイインステージ上に座ったままだ。ウェイインを済ませた選手や、関係者が次々とやってきた。聞いてくることは誰もが一緒、Ryanは何のルアーであのスコアを出したんだ?アングラーとしてはそりゃぁやっぱり一番気になるところだろう。デッキに転がったままのRyanのタックルを見ながら、ドックを撃ってたのはこのシェイキーヘッドとジグ、オフショアを釣っていたのはこのクランクだよと教える。
そう、別に特別なことをしていたワケではない。誰でも、そう私でも考えつくような釣り方。では何が違ったのか…。
そんな中、ルイジアナ州のボーターの選手が訪ねてきた。寺島さんが通訳をしてくれる。「Ryanの釣りはどうだった?」素直に、思っていた疑問をぶつけてみた。彼は相当練習したんじゃないか?釣れるエリアをよく知っていた。「そうさ、アイツは多分30日間くらいプラクティスをしてる」
その言葉にハッとした。バスマスタークラシックへ続く道。その価値をわかっている人間は、それを自分のものにするためにそこまでやるんだ。隣の州とはいえ、東京から琵琶湖くらいの距離がある。
日本でできることはやってきたつもりだった。こんなに準備してきたんだ、との自負があった。現地に渡らないとわからないことがあるのもわかっていたし、こちらに来てからは1分1秒を無駄にしないようにしようと思っていた。自分なりに、バスマスタークラシックへの道を模索し、そこへ向かうためにこの数日間何をすればいいか、わかっていたはずだった。でも…甘かった。私の考えは思い上がりだったのか。そんな風に思い知らされた。

同時に、そこまで努力したRyanには勝って欲しい、心からそう思えた。彼だけではない。北部からBNC開催地のテキサスまで、数日間を費やしボートを引っ張ってくるアングラーも大勢いた。バスマスタークラシックにかける、Nationの選手達の本気度。それを肌で感じられたことは、せめてもの救いだったかもしれない。

そして、未来へ

翌朝、11月19日。前日にコールドフロントが通過したテキサスは、強風が吹き荒れていた。この荒れ具合はヤバい。3日目はボーター上位10名+ノンボーター上位1名での戦いだ。Ryanは見事にノンボーター1位を獲得しただけでなく、昨日のスコアが効いてトータルで暫定1位。クラシック出場権獲得は高確率で期待ができる位置につけていた。
つい数日前は30℃近くあった気温が、今朝は5℃程度。こういう激変する状況でのトーナメントを経験してみたかったなぁ…と思いつつ、出場選手達を見送りに会場へ向かった。
やはり強風でディレイの判断がくだされていたが、風は一向に収まる気配がない。選手とスタッフによるミーティングの結果、1日延期で翌日開催となった。

11月20日。この日は帰国する日だった。午前中のフライトだったので、朝のうちに空港に行かねばならない。でも、BNC参加選手として、決勝のスタートだけは見ておきたかった。前日と同じように冷えた空気の、まだ薄暗いマリーナから選手がスタートしていく。トーナメンターとしてある意味屈辱的とも言える「見送り」。しかし…。

ヒューストン空港を出発した成田行き173便は、大きく旋回しながらレイク・コンローの上空を通過した。飛行機の窓から滑走するバスボートが小さく見えた。なぜだか、また涙が出た。いつまでも後悔していてもしょうがない。絶対に、再びこの地を訪れる。次は同じ轍は踏まないぜ。涙を拭いながら、見えなくなっていくコンローにそう誓った。

あまり眠れなかった13時間のフライト。成田に到着し、スマートフォンの電源を入れると、Ryanが優勝したというニュースが飛び込んできた…。

幸せな、夢のような8日間の旅が終わった。幸せだったけど、悔しかったし、情けなかったし、悲しかった。向こうに大きな忘れ物をしてきてしまった。その忘れ物を取りに行くために、もっともっとバスフィッシングを好きになろう。この旅で思い知らされた「自分に足りないもの」を練習して補おう。
そして誰にも負けたくない、また挑戦権を掴み取りたい、そんな思いと裏腹に、一人でも多くのトーナメントアングラーにこの経験をして欲しい…不思議な感情が湧き上がってきていた。

今年もシーズンが始まる。再び「憧れ」を「現実」に変えるべく、戦いは続いていくのだろう。

番外編 その1「Gary Yamamoto」

帰りのヒューストン空港。祐也くんの預け入れ荷物が2kgほど重量オーバーになった。仕方ないので、トランクに入っていたワーム類を私の手荷物に入れておいたのだが…。
手荷物検査のX線でそのバッグが引っ掛かった。プーチンみたいなイカツイ顔をした 親父がバッグを持ってゆっくり歩いてきた。中身を確認するからこっちへ来い、と私を促す。バッグのチャックを開けると…まず出てきたのは祐也くんのワーム類。
先ほどまで睨みをきかせていたプーチン親父がニヤっと笑う。「Oh, Gary Yamamoto!!」あれ、今ゲーリーヤマモトって言った?
「I’m B.A.S.S. Nation Championship Contender」そう答えると、そうかそうか、お前はレイク・コンローに来たのか。オレはルイジアナの川で良く釣りしてるんだぜ。
結局、引っ掛かっていたのは、バッグに入れた、BNC参加選手の楯だった。プーチン親父は対して確認もせず、笑って通してくれた。
…が、祐也くんからは「固いものは手荷物に入れちゃダメですよ」と怒られたのだった。

番外編 その2「I like pineapple」

Ryanにとってラッキーアイテムとなった、日本製の「パインアメ」
応援に駆けつけていたRyanのファミリーにも配っておいた。
後で玉越さんから聞いた話だけど、Ryanのお姉さんらしき女性が言っていたそうだ。
「あの子、ホントはパイナップル嫌いなのよね」

あぁ、気を使わせてしまっていたのか…。

番外編 その3「That is not Moon」

アメリカは空が美しい。
空気が汚れていないせいなのかな?サンライズの時間帯も、昼間のスカイブルーの空も、夕焼けに染まる寂しげな空も、全てが日本の景色より美しく、目を奪われてしまう。
気付けば、滞在中は空ばかり見上げていた。
毎朝、暗いうちに起床していたのだが、ホテルの窓からまだ暗い外を見ると、庭が白く光っているように見える。もしかして月明かりもキレイなのかな…。
ベランダに出て空を見上げると、白く眩しい満月がホテルの真上にあった。同室の祐也くんに「こっちは月も眩しいんだね」と伝えると…。
「あれは、ホテルの屋上に付いてる電球ですよ」との冷静な返答が…(笑)。