11月17日、Day1。パートナーはオレゴン州のAddam。なかなかのイケメンだった。公式プラクティスに続き、今日も最終スタート。アメリカ国歌が湖上に響き渡り、荘厳な空気に包まれていよいよチャンピオンシップが始まる!
スタートを待っている時、神妙な面持ちのAddamに「Are you nervous?」と尋ねると「Yes! But I’m excited!」と返ってきた。
いよいよスタート。目指すファーストポイントは、昨日と同じリップラップ!Skeeterのアクセルを踏み込むと、HDSに表示された時速がどんどん上がって…いかない。画面には「GPS Not Responding」の文字が…。衛星を補足していない時とか、アンテナの線が断線したりする時に見かける表示。この広いフィールドで、コンソールのGPSが使えないのはキツい。あれこれ試してみたのだが、どうにもできず。隣で「何してんだコイツ?」みたいな顔をしていたAddamも画面を見て状況を察したようで、彼にも見てもらったのだがどうやらお手上げの様子。
仕方ない、こうなればGPS無しでもどうにかするしかない、と諦め、とりあえずファーストポイントへ向かう。リップラップの端から流し始めるが、昨日と異なり反応がない。こんなに丁寧にやっているのに!
お互いにノンキーパーを数本ずつキャッチし、リップラップにブッシュが絡んだスポットでビッグバイト!やっとキーパー来たよ~、と安心したのも束の間、バックシートから「Drum…」と声が聞こえた。案の定、姿を見せたのは愛嬌のある顔のドラムだった。
続くキャストでも再びロッドが曲がるが、今度はなんとクラッピー。2日間のプラクティスでは釣れていない魚達が今日は良く釣れる。プラクティスで釣れていたら記念にカメラに収めていたであろうこの魚達も、今日のこの真剣勝負には邪魔な存在でしかなかった。
初日のステージが終わり、夕闇の中ボートヤードで翌日の準備をする。そこへ全選手のリザルトを確認した寺島さんがやってきた。
「明日一緒に乗る選手が、今日ノンボーター部門で2位になってるよ。もしかしたら自分のポイントに行かせろ、って交渉に来るかもなぁ」
こういうケースって、やっぱりある程度ノンボーターのポイントへ行ってあげるのがセオリーなんですか?と問うと「そうだね。でもあくまで決定権はボーターにあるから、どちらでもいいと思うよ。ただし、釣れなかった場合はパートナーとの空気が相当悪くなると思うけど」と答える寺島さん。
実は、初日の後半、ノンボーターとの間にはとてもギスギスとした空気が流れていた。スマホの翻訳機能を使えば相手が何を言っているのかは理解できる。しかし、トーナメント中はいちいちそんなコトをしている時間はない。「Please speak more slowly」と何度も言われ、しかも見当違いの回答をするジャパニーズに、明らかに苛立っている様子だった。
もっと英語を勉強しておくんだった。今更後悔…。
そうこうしているうちに、彼がボートに近づいてきた。寺島さんを介して「明日は自分のエリアへ連れてってくれ。オレのメインパターンはドック撃ちと沖のブレイクだ。ただし、ドックの奥はオレに撃たせて欲しい」と。
これだけ自信を持って言ってくるのだから、魚のいるエリアを掴んでいるのだろう。明日は天候が崩れる。魚はドックの奥でジッとしているとは到底思えない。活性が上がり、ドックの周囲でフィーディングする魚も多いのではないか。魚がいるエリアさえわかれば、決して釣り負けることはない…そう考え、彼の申し出を受け入れることにした。
11月18日、Day2。早朝、前日までとは違った、湿気の高い空気がマリーナを包んでいた。彼=ルイジアナ州代表ノンボーター、Ryanは自分のiPhoneに登録したポイントを、HDSに移し替えている。
今日は1番フライト。まだ薄暗い、誰もいない湖面を時速100km超で滑走する。Ryanが選んだポイントは、湖中流域のボディーウォーターに面した、岬周りにあるドック群だった。
最初のエリアではドック周りのクランキングで魚を掛けるも、丸飲みされていたのか痛恨のラインブレイク。次のエリアも、その次のエリアでも、魚からの反応は無い。その間に、彼はノンキーパーを数本キャッチしていた。
数回の移動ののち、私にもバイトが来る…がこれもノンキーパー。思う通りに行かない焦りか、彼がイライラしているのが伝わってくる。
何時間経った頃だろうか。予報とは裏腹に薄日が差してきた。ドックから次のドックまでの間の護岸、一見何もないのだが恐らく何か沈んでいるスポットなのだろう。グッドサイズのキーパーをやっと彼がキャッチした。
ポイントを知っていないと辛いな、と気付かされる。その後1時間ほど、お互いにノンキーパーしか釣れない時間があったのち、彼がドックの奥でデカい魚を掛けた!なるほど、これを狙っていたのか…。
天候はすっかり回復し、前日までのような日射しが戻っていた。これではドックの奥が撃てないと不利かもしれない…。
次に移動した先は、今までとは逆の条件…ワンドになった部分にあるドック群だった。本来ならきっともっと簡単に魚が揃うと想定していたのだろう、彼はまたイライラしていたように思う。
Be relax! Try Japanese Candy. そう言って日本から持ってきた【パインアメ】を差し出した。「Oh Thanks! I like pineapple」彼は小声で応え「Try it」と言ってアメを口に入れた。
そのドックの沖に、彼はオフショアのスポットを持っていた。恐らく野池跡と思われるエリアのブレイク。「This waypoint to this waypoint,moving slowly.」HDSに表示されたウェイポイントを指差しながら、彼はそう指示した。
スタート前に寺島さんが「コイツは英語が話せないけど、単語なら理解できるから、簡潔に伝えてね」と言っておいてくれたおかげで、Ryanはわかりやすい言葉を選んで話しかけてくれていた。
50mほどのその区間を、何度も往復して欲しいとの彼の指示。沖に向かって遠投し始めた彼。ここは同じ立場で釣りができる、とディープクランクのついたロッドに持ち替える。
先にロッドが曲がったのはやはり彼だった。右に左に良く走る魚に、彼の顔が曇る。「Striper…」と呟いた。結構なサイズのストライパー。
プラクティスではストライパーではなく、ラージマウスが釣れていたらしいのだが。
その後、二人で何尾のストライパーを掛けたことか。そんな中、彼の掛けた魚が水飛沫を上げた。ストライパーなら左右に走るだけのハズ。ラージマウスだ…。
ストライパーに見劣りしないグッドコンディションの魚。期待がグッと高まる1本だったが、次のキャストからまたストライパー祭りが始まる。
しかし数投の後、彼は再びラージマウスをフッキングさせた!しかもデカい!見事な6パウンダーをキャッチして、彼は饒舌になった。ありがとう、お前に貰ったパイナップルキャンディーのおかげだ!これはラッキーアイテムだ、と…。
そのポイントで彼は更に1本追加し、リミットメイクに成功した。あぁ、きっと彼はオフリミットになる前、相当練習を積んだに違いない。自分の中にある悔しい気持ちに蓋をし「Congratulations! I think, You will be winner…」と声を掛けた。
直後、風向きが変わり、北の方から黒い雲が急に現れた。急いでレインウェアを着ろ、と彼が言う。慌ててレインウェアを着ると、バケツをひっくり返したような雨が降り出した。
彼が何か言っている。恐らく「大丈夫。オレは他にもスポットを持っている。頑張って釣ろうぜ」というようなニュアンスだったと記憶している。今は彼を信じるしかない…。
豪雨、そして強風。荒れた中の操船はなかなか痺れた。顔に叩きつける大粒の雨が痛い。途中偏光グラスが飛んだが、シートの隙間に引っかかっていてくれた。そんなこんなでどうにか彼の指定したエリアについたものの…。
さっきのスポットと同じ野池跡のようだが、日本で経験したことのないような強風で、ハイバイパスにしても進まない。正直な話、舐めていた。低気圧(コールドフロント)がこれほどのものとは…。日本ではポピュラーな「気圧が下がったから活性が上がる」なんていう状況を想定していた、いや甘い夢を見ていた自分が恥ずかしくなった。
ここのエリアにも彼は相当コンフィデンスを持っていたようだが、この状況では仕方ないと判断し、風裏に避難することにした。近くにあるドックを撃ち、彼が1本キャッチした。3ポンドほどのキーパーだが、入れ替えに成功。タイムアップまでもう僅か。会場対岸まで移動し、ドックを撃つも、彼がノンキーパーを獲ったのみで、帰着時間を迎えた。
フライトが1番だったので、ウェイインも一番。最初に船をローディングし、牽引されてウェイインステージへと向かう。いつもネットで見ているB.A.S.S.の司会、Dave Mercerが「Nao Ishikawa!」とコールする。通訳してくださった寺島さんを介して感謝の意を述べた後、Daveからマイクを奪って「I’ll be back!!」と言ってステージ裏へ引っ込んだ。裏手にいたトーナメントディレクターのJonが「Nao! Thank you.」と握手を求めてきた。懸命に作った笑顔でJonのデカい手を握り返し、そのままステージ裏にある階段を降りると、もうガマンすることはできなかった。悔しさ、情けなさ、責任感、敗北感、祭りの後の寂しさ、その他例えようのない気持ち…。涙が頬をつたう。拭っても拭っても溢れてくるので、たまらず上を向いた。さっきまでの豪雨がウソのような、低気圧通過後のテキサスの青い空がそこに広がっていた。